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2017-10

イチヨウラン - 2015.06.08 Mon

親切な夫婦に助けられる
 かねてから八ヶ岳行きを漠然とではあるが考えていた。
 ここへ行く目的は、ツクモグサとホテイラン。これらの他に、もう1つ、見てみたい花があった。それは、イチヨウランである。
 イチヨウランは、八ヶ岳行きの山行記の中で、出合ったという話がよく出てくるので、馴染みの花だといえるが、私は実物と対面したことがない。このため、ずっと以前から見てみたい花の代表的な存在であった。
 5日昼過ぎ、病院から帰ってテレビの天気予報を見ていると、6日と7日は晴れだが、その後は曇りとか雨の日が続くという冴えないものであった。これを見て、急に八ヶ岳行きを決める。
 姫君は留守番のため、私1人なので準備に時間はかからない。13時40分頃、自宅を出発する。
 何時ものように塩尻までは国道19号、それから先は国道20号で茅野まで走り、そこから一般道で美濃戸口まで行く予定であった。
 この日は国道19号の流れは悪く、イライラしながら走ることになり、塩尻まで4時間もかかってしまう。途中から雨も降り始める。これは天気予報でも分かっていたが、明日の未明には止むとのことなので、明日の行動には支障はないと気持ちを落ち着かせるが、国道20号では雨脚も強まってきて、嫌な気分になってくる。
 高速道路を使えば、諏訪南ICからは八ヶ岳ズームラインを一直線に走って八ヶ岳高原ラインに交わって簡単に八ヶ岳の主要登山口である美濃戸口に行くことができる。この道なら目を瞑っていても到着することが可能だが、塩尻から岡谷、諏訪、茅野を経由して行くとなると、突然、道不案内となるのでカーナビに任すことになる。彼女は、今までに一度も通ったことのない道を指示する。仕方なくこれに従うが、辺りは真っ暗、雨は勢いを増すという状況の中では、内心、別の場所へ案内されるのではないかという不安が渦巻き、彼女に案内させるのではなかったという後悔の念が次第に強くなっていく。こんな折、「700m先を左手前に曲がる」というカーナビの指示がある。残りの距離からも美濃戸口の直前ということも分かり、この曲がり角の位置も頭の中で描いた地図で確認、『やっと着いた』と、それまでの不安感から解放された。結果的には八ヶ岳高原ラインを逆、北のほうから走ってきたことが分かった。
 美濃戸口の八ヶ岳山荘前の駐車場に車を乗り入れたとき、19時30分であった。名古屋から6時間弱も要したことになり、改めて名古屋からここまでの距離の長さを再認識することになった。
 このとき、雨は盛んにフロントガラスを打ちつけており、運転席から寝室代わりの後部荷物室へ移動するのを躊躇うほどであった。
 先ほど、塩尻で夕食を済ませてきたので、今夜はここで寝るだけである。
 とはいえ、ここは寒い。塩尻で見た道路脇の温度計の気温は11℃を示していた。ここは更に下がっていることが推定されるので、10℃を下回っていることは確実だ。夏用の薄手のスポーツシャツで充分だと思っていたが、これだけでは寒そうに思えてくるのでフリースの上着を重ね着する。本日は単身ということもあって掛け布団が余っている。これも引っ張り出して2枚重ねにする。このように今までにない厚着をして寝るが、朝まで暑くて目を覚ますということはなかった。それより、小用の要求で目覚めるのには閉口した。車外の雨は衰えを知らず、車の脇で用を足すことができるのにかかわらず、その都度、傘を差しても身体が濡れてしまうからだ。
オキナグサ
 5月6日(土)。
 4時30分、目覚める。
 自分のいる場所が分かって真っ先に窓の外を見た。
 天気予報では「夜のうちに雨は上がる」であったので、青空を考えていたが、現実は違っていた。まだ、小雨が降り続いていた。この想定外のことに戸惑いを隠せなかった。本日の主役、ツクモグサは天気に敏感な花であるので、何はさておき、太陽が顔を出さなくては話にならない。雨はもとより、曇っていて太陽が顔を覗かせないときには、この花は花びらを満足に開かない。
 このため、苦労して稜線まで登り上がったとしても曇りでは花には期待できないため、本日の硫黄岳行きはあっさりと諦めることにする。
 となれば、ここにいても仕方がない。何処へ行くという具体策はないが、取り敢えず、ここから最も近い『道の駅・こぶちざわ』へ向かう。ここでユックリと朝食を摂って、本日の行動を改めて考えることにする。
 30分くらいで目的の道の駅に着く。
 ここは小さな道の駅だが、隣には温泉施設もあるので使い勝手もよく、これまでに何回も訪れている。駐車場には10台以上の車が停まっていた。時間から推し、これらは昨夜からの泊まりの車だと考えられ、車旅の季節になったことが窺える光景でもあった。
 朝食を摂っていると、車の中が明るくなってきた。外を見ると、雨は上がり、上空の雲の切れ目から陽の光が差し込んでいるのが分かった。これを見て、一瞬、『登ればよかった』と思ったが、再度、空を見上げると雲が取れて青空が顔を覗かせているのはごく一部に過ぎず、全天の9割以上が黒い雲に覆われており、その雲の色から『何時降り出すか分からない』という状態で、ここでも改めて、本日の決定が正解であったことを納得していた。
 『さて、本日は何をして過ごそうか』と、いろいろ思案していた。本日、八ヶ岳行きを中止することは想定外のことで、代替案などまるっきり考えていないし、それを補う資料の持ち合わせもない。道の駅が開けば、何かの資料もあるかも知れないが、それまでに3時間近くも待たなくてはならない。
 こんなことを考えていて、フッと浮かんだことがある。 『オキナグサを見てみたい』ということだった。
 オキナグサはツクモグサの親戚のような花だが、この花期は終わっている。だが、この花には花後がある。名前の由来となった翁の髭のような白い髭状のものに花が変わるとの由である。でも、これはこれまでに一度も見たことがない。花期が終わってからいくらも経っていない今なら、これが見られるかもしれないということが閃いたからだ。
 これは良い案だと自画自賛してみるが、その場所を具体的に思い出さない。地図でも持っていればいいのだが、持っている地図は『道の駅 全国地図』だけなので、この辺りの詳細は分からない。権現岳の麓であるなど、思い付くままの条件を総合して勘案していき、『この辺りだ』という地点を探り当てた。取り敢えず、ここにカーナビを合わせて車を走らせた。
 結果は、カーナビの案内が終了してからだいぶ先ではあったが、この道筋であることに間違いはなく、無事に目的の駐車場に到着することができた。
 前回、オキナグサの自生地に訪れたときには、探しに探したが、今回は2回目ということもあって咲いている場所は分かっているので、こんな苦労はすることもなく、そこへ直行する。
 そして驚いたことに、前回より多くのオキナグサが咲いていた。もちろん、咲いているとはいっても花自体は既に終わり、花びらは遠の昔に散っていた。だが、名前の由来となった白髭だったか、白髪だったかは、生え始めたところであった。このため、イメージしていたものよりは、チングルマの花穂を立派にしたようなものという感じではあったが……。
 ここに着いたときには、南アルプスや秩父の山々がクッキリと姿を見せていたが、何はともあれオキナグサだと思って撮影に没頭する。これにひと区切りが付き、風景も撮っておこうかと、その方向に目を転じると、たいした時間は経過してはいないのにかかわらず、これらの山々はガスの中に姿を没していた。これを見て、また八ヶ岳のことを思い出し、八ヶ岳の天気も本日はアテに出来ず、諦めて正解だったと判断の正しさに満足していた。
 八ヶ岳も稜線には登らなかったのでオキナグサは諦めることになったが、麓に咲くホテイランは天気がどうであれ、折角、ここまで来たからには見ておくことにしていたので、再び、美濃戸口へ引き返すことになる。
 八ヶ岳山荘前の駐車場に到着すると、早朝よりは車もだいぶ増えていた。ここの駐車場は上、中、下段の3面の駐車場があり、各々、50台くらいは停められそうである。そのうち、下段のそれは閉鎖してあったが、上段と中段が車を受け入れていた。このとき、上段はほぼ満車状態で、中段へ1、2台が入り始めたときだった。ちなみに、本日と明日は土日の休日ということに加え、明日が八ヶ岳の開山式ということもあって入山者が多いようだ。
 このとき、「最奥の美濃戸まで入れ」という声が耳の奥から聞こえてきた。ここまで車を入れれば、1時間くらいの歩きが省略できるので身体には優しいことになる。これを知っているので、私の弱いほうの心がこのように言わしめているのだが、ここの凸凹道を私の車で走るのはこれはこれで大変である。また、ここ美濃戸口で停めれば駐車場は500円(1日)だが、美濃戸では1000円(1日)になる。こんなことが頭の中を駆け巡り、どうしようかと迷ったが、貧乏人の性(さが)が勝ったようで、ここの駐車場に乗り入れていた。
ホテイラン
 身支度を整えて歩き始める。
 歩いてみて、車で来なくてよかったとしみじみと思った。歩く私を追い抜いていく乗用車の屋根が大きく左右に揺れているからだ。乗用車でもこのように揺れる。私のハイエースならば、揺れはこれ以上だろう。運転手の私はハンドルにしがみついていれば、この揺れにも耐えられようが、問題は後部室に設えてある家具類の受けるダメージが問題なのだ。
 こうして、この道を歩いていると何時も思い出すことがある。
 今から10年以上も前の正月山行のことだ。硫黄岳から降りて車に乗り込み、名古屋へ向かって帰り始めた。この時期であるので道には積雪があって舗装道路を走っているようなもので凸凹の問題はない。問題は、ブレーキを踏むたびに車は横に滑って運転操作が不能に陥ったことだ。こんな経験はないだけに必死になって運転を立て直そうとしてようやく見付けた方法が、フットブレーキの代わりにハンドブレーキを使うという方法であった。それでも、何時、谷側に落ちるかもしれないので、最後には姫君に車から降りてもらう始末であった。原因は、当時の車が4WCのレガシー(スバル)に2輪のみにチェーンを装着していたことだったらしい。
 この当時のことを思い出しながら歩いていく。美濃戸口から美濃戸までは、緩やかではあるがずっと登り勾配である。緩やかといえど、今の私には負担になる。早々とダウンジャケットを脱ぐが、次にスポーツシャツが汗ばんでくるのが分かるが、これを脱ぐと半袖のTシャツ1枚になるので、脱ぐに脱げないでいた。美濃戸に着いてスポーツシャツを脱ぐと、シットリと湿り上がっていた。再び、これを着る気にはならなかったが、Tシャツだけでは寒い。仕方がないのでTシャツの上にダウンジャケットを羽織るとちょうど良く、以後、このスタイルでの行動となる。
 ここへ来た目的はホテイランであるが、これの咲く場所は分かっているので、これについては如何に失敗せずに撮影するかであり、これについては何の問題もない。実は、これ以外に秘かに狙っているものがあった。
 それはイチヨウランである。この花は何もここだけに咲くというホテイランとは違って、いろいろな場所で見付けたという報告があるのだが、私としては残念ながらこれまでに1度も見たことがない。このため、目を皿のようにして歩いていくが、そんなに簡単に見付かるものではなかった。
 こんな折、降ってきた女性の2人連れに出会った。彼女らに訊くと、「イチヨウランは見たには見たが、崖下に向こう側に向いて花が開いていたものだった」とのこと。まだ、この花を見たことのない私としては、正面からみようなどとの注文は付けない。どんな形でも見られればよい。
 これ以後、崖側に視線を集中しながら歩くことになるが、見付け出すことはかなわなかった。でも、ホテイランだけは予定どおりカメラに収めて失意のうちに引き返すことになる。
 すると、私の前をノンビリと歩いていく夫婦連れが目に付き、間もなく、肩を並べることになる。私より少し年長かと思われるコンビだった。挨拶かたがたイチヨウランについて尋ねると、「見た」とのことだった。それも、ここからそんなに離れていない場所だという。詳しく目標となるものなど聞いて戻ろうとすると、「私が案内しましょう」と親切に申し出てくれる。思ってもみない提言に戸惑いつつも大喜びして案内してもらうことになった。
 とある場所までくると、「ここです」と指で教えてくれる。その指の先を辿って視線を送るが、暫くは、それが何処にあるか分からなかった。指の先を1点に絞り込んで注意深く視線を集中させて、やっと分かった。そして、「これは私だけでは見付けられません」と正直に感想を述べた。写真に撮ると、背景がボケるので比較的にハッキリと分かるが、肉眼で見ると背景の細かい部分もシッカリと見えるので、写真よりも寧ろ見辛いのだ。
 教えてくれた夫婦の後ろ姿に深く頭を垂れて見送ってから、撮影に取り掛かる。花の部分のみをマクロレンズで接写するのはピントがやや合わせ難いきらいはあるが、それほど問題は起こらなかった。初見の花だけに、名前(一葉蘭=1枚葉のラン)の由来となった葉っぱを含めた全体像を撮ろうとすると問題が起こった。カメラが何を写してよいか分からないようで、ピンボケのままシャッターが下りてしまうのだ。ピントを手合わせしようにも、ズームレンズを付けているので簡単にはいかない。仕方なく、そのうちにピントが合うだろうと思って、何枚も何枚もシャッターを押し続けた結果、本体を何とか捉えることができた。
 それにしても先ほどの親切な夫婦には感謝、感謝であった。
 これが鈴鹿で、このようなことが起こっていたらどうなっていただろうか。多分、「花は自分で見付けろ」とか、「教えると盗掘の原因になるからいえない」とか言って、教えてはもらえなかっただろう。こういう環境で育った私も意地が悪いというか、料簡が狭いというか、具体的に花の咲いている場所を記すことを躊躇うような習性が身についてしまっている。もっと大らかになり、喜びを共有できるようにならなくてはと思いつつ、改めてこの神様のような夫婦に感謝していた。
 このような経緯で、ツクモグサはゲットすることはできなかったが、最も見てみたいと思っていたイチヨウランを始め、ホテイラン、オキナグサを見ることができ、充分に満足できる今回の遠征であった。ちなみに、この日は時間の経過するに伴い天気は快方傾向に推移するが、稜線では晴れた形跡は感じ取れず、また、稜線は強風の予報が出ていたことを併せ考えるに、満足のいくツクモグサに出合うことはなかっただろうと思っている。このため、最小の労力で最大の効果を上げた1日といっても過言ではなく、満足感に包まれて帰路に着いた。
 復路も往路をそのままトレースしての帰りとなったが、道路事情はよくて順調に走ることができ、14時30分に美濃戸口を出て、19時30分に自宅に帰り着くことができ、道路も本日の成果を祝ってくれた感じだった。
イチヨウラン

● COMMENT ●

イチヨウラン小さそうですね。

ご無沙汰しております。
私も花を目当てに同時期に八ツへ行っていましたが人が多くて
うんざりしていました。それにしても下道とは凄いですね。

 こんばんは。
 日曜日に行かれたということは、私の翌日ですね。この日に登ることも考えたが、晴天は望めそうもないようだったので諦めました。それにしても、赤岳から硫黄岳を日帰りとは、私には真似のできない健脚ぶりに、羨ましく、眩しくもあります。


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