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2017-11

百名山の思い出・その17 - 2013.01.15 Tue

仙丈ヶ岳 (せんじょうがたけ・3033m)
 1999年7月18日。
 4時30分頃、南アルプスは北沢峠のテント場で朝を迎える。
 テントの周辺の様子から推すと、夜半には雨が降っていたらしい。だが、今は上がっていた。
 普通なら夜中に1度くらいは目を覚ますのだが、昨夜に限ってはこうはならなかった。その理由は……。
 昨夕、焼鳥パーティーを行い、持参の食材を食べ尽くし、酒も最後の1滴まで飲み干した。その結果、充分に酔っぱらってグッスリと眠ったようで、夜中に起こったことなど何も覚えていない。
 頭がハッキリしてくると、ヒロシちゃんのテントで寝たシカちゃんのことが気になってきて隣のテントを覘いてみる。彼も既に起きており、様子を尋ねると「寒くもなかったし、寝苦しいこともなかった」とのことでヤレヤレと胸を撫で下ろす。
 朝食は、クロワッサンとコーンスープと軽めのものを用意してあったので、これで手早く終える。ちなみに、前回の唐松岳のとき、朝食用のパンが他の荷物に押し潰されて固くなって食べるのに苦労した。このため、今回はプラスチックケース(タッパーウェア)に入れて保護してきたので前回のような失敗は起こらず、美味しく食べることができた。スープもお湯で溶くだけの簡便なものだが、こういう場所で飲むと身体が暖かくなって美味しさも下界では味わうより数当倍も美味いということが分かる。でも、全部が全部、上手くいったわけではない。パンに付けるものとしてクリームチーズを持ってきたが、これは乾燥してパサパサになってしまっていた。
 食後、コーヒーを飲みながら本日の行動、仙丈ヶ岳行きに異議を唱える者はなく、予定どおりに実行することを確認する。
 天気は芳しいものではなく、何時、降り出すかは分からないという雲行きなので、テントは張ったままで中に荷物を入れておいて帰ってから撤収するという手順にする。
 こうして、6時頃、テント場を出発する。
 林道まで出ると、『☜仙丈岳2合目・見晴らし台』という標識が出ていた。これは、多分、近道であろうが、「初めて行くのだから正規の道で行こう」と、バス停まで足を伸ばす。

北沢峠の登山口

 バス停の前には、立派なトイレが造られている。誰かが、「トイレにいっておく」といって中へ入っていく。待っていると、催してくるものらしく、次が入り、また次がとなる。私は、その気はなかったのだが、どうしたわけだか便意を催してきて、最後になって「僕も……」とトイレに入っていくことになった。
 ここのトイレは、完成後、間もないもので、水洗式。大便器も西洋式の腰掛型、しかも便座はヒーター付きだ。わが家にもない立派な設備が大いに気に入り、ユックリと用を足して出てみると、シカちゃんが先行、出発していった後だった。
 6時20分、慌てて、登山口を後にする。
 本日は15時50分の最終バスに乗らなくてはならないが、9時間もあるので計算上はタップリと時間がある。でも、帰ってからテントの撤収作業の時間も必要だし、私たちはコースタイムの5割増しの時間を要するということも珍しくはないので、その場にならなければどうなるか分からないという危なっかしいところがある。したがって、本日は11時をタイムリミットとして行ける所まで行き、その時点で帰ってくるというタイムトライアル方式で行くことを話し合いながら樹林の中の尾根道を歩いて行く。
 2合目の手前で、シカちゃんに追い付き、しばらくは4名で歩いて行く。間もなく、シカちゃんが「先にいってくれ」とのことで、私と姫君が先行することになる。
 6時50分、私たちが2合目に到着。ここで待っていると、5分くらい後、ヒロシちゃんとシカちゃんが相次いで到着する。
 次に、7時25分、4合目に到着して暫く待つが、後続の2人はなかなか姿を見せない。「先に行こうか?」と姫君に同意を求めると、「そうね、先も長いし……」と賛意を示す。
 ここから先、数組の下山者と出会ったときの会話を要約すると、彼らはいずれも馬ノ背ヒュッテに泊まった人たちだった。そして、昨日、小仙丈ヶ岳から登ったが、所要時間は5時間くらいだったらしい。彼らと同じように歩けたとしても、これだとギリギリ。下手すればタイムオーバーだ。
 「折角、来たのだから頂上に立ちたいわね」と姫君。私とて同様であることはいうまでもないことだ。頭の中で色いろと計算して、「馬ノ背のほうから周ろうか? 多分、こちらからのほうが早そうだよ」と提案。即座に意見は一致する。
 7時45分、5合目の大滝ノ頭に到着する。
 ここを直進すると小仙丈ヶ岳を経由して頂上へ行くことができ、右手のコースだと馬ノ背からダイレクトに頂上へ行くことができることは出発前に地図で確認している。また、ここに立てられた標識にも、これが正しいことが示されている。

大滝ノ頭

 しかし、普通は小仙丈ヶ岳から行くことが多いので、逆回りになる。これを後続のヒロシちゃん及びシカちゃんに知らせなければならない。幸いなことに、昨夜の雨で地面が柔らかくなっていたので、ストックで馬ノ背のほうへ行くことを地面に掘り込むように書き、「これなら、分かるだろう?」と姫君に確認、右手へルートを変更する。
 この分岐から右折して、しばらく進み、小さい沢を2、3度、横切っていくと林の中に薮沢小屋があった。この小屋は素泊まり客だけを引き受けているとガイドブックに書いてあった。玄関で声をかけてみると、だいぶ間があってから眠そうな顔をした若い男性が出てきたところからみて、昨夜は宿泊者がなかったのではないかと思った。
 この小屋を過ぎて間もなく、それまでポツポツと雨粒が落ちたり止んだりという状態であったのが、それよりは雨脚が強くなってきた。このため、私はカッパを着けるが、姫君は「この程度なら上だけで大丈夫よ」と、カッパの下を着けることはなかった。しかし、この姫君の読みは当たりで、それ以上は強くはならなかった。
 水はそれほどではないが比較的大きな沢を越えると、太平山荘からの道と交わる。ここからひと登りすると、馬ノ背ヒュッテの真新しい建物が見えてくる。
 ここを過ぎると、『馬ノ背・標高2700m』の標識の立てられた小広場があった。このとき、8時50分。先ほど、小屋の人が「頂上まで1時間10分」といっていたので、計算上は1時間の余裕をもって頂上に立つことができ、ヤレヤレである。でも、70分というのは、小屋の人など歩き慣れた人の話で、私たちではこんな具合にはいかないだろう。それでも何とか11時までに頂上にたどり着けそうだと分かると現金なもので、気持ちにも余裕が出てくるようだ。
 これまでは歩くのに必死で周囲のことなどまるで覚えていないのに、この辺りの道端に多くの花が咲いているのに気付いた。名前は分からないが、黄色、白、ピンクなどの花々が群生していた。この中に濃い紫色というか、濃褐色というか適当な表現は思い付かないが、ユリを小さくしたような花が目に付いた。これが、先ほどすれ違った女性が話していた『クロユリかな』と思ってみるが、初めて見る花で確信は持てない。

藪沢カール越しに仙丈ヶ岳を望む

 このお花畑を過ぎると、ハイマツの緑のじゅうたんの遥か向こうではあるが、仙丈ヶ岳のやや長めの頂上が分かるようになり、しかもその上に立つ人影らしきものまで見てとることができるようになる。こうなると『もう直ぐだ』と気が急くが、ここからが、結構、時間がかかったように感じる。
 避難小屋を過ぎると山頂までは指呼の間、着いたのも同然だと思い、張り切って登ろうとするが、現実には勾配がきつくなって足がいうことを聞かない。
 ここで前日に再会した東京の登山学校の一行と、また出会い、しばらく立ち話。「レポートだけで卒業証書を貰えるよう、校長先生にお願いしてよ」との会話を最後に彼らと別れる。
 最後のひと登りをすると、10時05分、頂上に到着する。
 出発からの所要時間は3時間45分、コースタイムより早く歩いた勘定で、こんなことは初めてである。
 このとき、雨は上がっていたが、雲が視界を遮っていて、遠くは何も見えなない。昨日、甲斐駒ヶ岳から仙丈ヶ岳が見えていたので、ここからも甲斐駒ヶ岳は見えるはずだが、何処にあるか、その方向すらも分からない状態であった。
 でも、雲の切れ間に山並みが見え隠れしており、多分、中央アルプスだと思われるが、こんな山影でも見えただけでも良しとしなければと自分自身を慰める。

視界のない仙丈ヶ岳の頂上

 復路は、最短の往路をそのまま引き返す予定であったが、思ったより早く着いたため、時間的余裕もある。「それなら小仙丈ヶ岳のほうから周ろう」と、姫君との意見も一致、その方向へ降り始める。すると、急に霧が出てき始め、たちまちのうちに目の前の視界が奪われていき、5mくらい先が辛うじて見えるまでになった。当然、降りて来たばかりの仙丈ヶ岳の戴きも掻き消されてしまい、再び、見えることはなかった。
 帰り始めてから20分も経った頃だったか、「あそこにいるの、ヒロシちゃんじゃぁない?」と、姫君が霧の向こうを指差す。頂上と反対側のほうで、幾分霧は薄いが、それでも私の目では人を識別できるものではなかった。でも、こうなると見極めたいのは人情、自然に歩みが早くなった。そして、その人影に近付いてみると、姫君の感は当たり……、ヒロシちゃんだった。
 「こっちからきたの? 大滝ノ頭に書いておいたのを見なかった?」と真っ先に尋ねるが、「いやっ、知らない」との由。ちなみに、帰りに確認したが、多くの人に踏まれたためか、消えてしまっていた。
 「ここから頂上まで登りで30分くらいだよ。帰りは向こうから降りると早いよ」と登頂を薦めると、「頂上なんて、行ってもいかななくても……。一緒に帰るわ」とヒロシちゃんは淡白であった。
 「ところで、シカちゃんとは何処で別れたの?」と気になっていたことを尋ねると、「3合目。ゆっくり歩いて行くといって……。もう、帰っているかもしれない」とのことだった。
 何時ものことながら、帰りは早い。途中でコーヒータイムを採ったが、それでも、13時前に登山口に帰り着いていた。
 テント場に帰ってきても、シカちゃんの姿はない。「バス停のほうで待っているのだろうか?」、「帰りのバスの時間は知っているから大丈夫だよ」などなどと会話しながらテントを撤収して、食事をしているときにシカちゃんが姿を現わす。彼の話を聞くと、小仙丈ヶ岳まで行って、そこから引き返してきたとのことだった。これなら途中で出会っていても良さそうなものだが……、と思って私たちの行動とすり合わせする。小仙丈ヶ岳には、頂上を踏む道とこれを巻いて通る道があって、シカちゃんが頂上にいるうちに私たちが巻道を通って下山したため、行き違った形になったことが判明した。
 これで全員が揃い、帰り支度してバス停に向かう。
 ここで1時間近く待たされるが、それでも定刻前に臨時便が出て、これに乗って予定よりは早めに仙流荘に帰り着いた。

ガスで視界のきかない下山路

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